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AT1債とは何か?(前半):UBSグループのクレディ・スイス買収とその影響について
Column

皆様こんにちは。株式会社 Japan Asset Managementです!
さて、皆様は「AT1債(エーティーワンさい)」をご存知でしょうか。

最近、スイス金融最大手のUBSグループが同2位のクレディ・スイス・グループを買収することが決定し、この買収に関連してAT1債が注目を集めるようになりました。\
今回と次回のブログでは、この「AT1債とは何か」を2回にわたって、わかりやすく解説していきます。

[目次]
・なぜAT1債が注目されているのか?
・どのような条件でクレディ・スイスの買収が行われたのか?
・まとめ


なぜAT1債が注目されているのか?

AT1債が注目を集める最大の要因となったのは、2023年3月19日、前述のUBSグループによるクレディ・スイス・グループの買収が決定し、その買収に際して多額のAT1債の無価値化(全額減損)が発表されたことです。

近年、クレディ・スイスの周りではネガティブなニュースが続いており、買収に至った大きな要因は3つ挙げられます。

1つ目はグリーンシル・キャピタルの破綻です。英国の金融サービス会社グリーンシル・キャピタルは、サプライチェーンファイナンスの専門家であり、同社は顧客が発行する債券のリスクを引き受けることで利益を上げていましたが、これらの債券の信用リスクを適切に評価することができず2021年に破綻することになりました。

クレディ・スイスは2017年以来、同社に向けて4つのファンドを立ち上げ、合計で100億ドルを投資していました。損失額は当初約2億ドルほどでしたが、後に最大で約30億ドル(約3500億円)まで達していることが明らかになりました。この損失はクレディ・スイスの業績にも大きな影響を与え、銀行株価にも悪影響を及ぼしました。

2つ目は、アルケゴス・キャピタルの破綻です。2021年初頭、ファミリーオフィス(裕福な家族の投資管理と資産管理を扱う非公開会社)のアルケゴス・キャピタルが破綻し、話題になりました。大量の取引を短期間で行うアルケゴス・キャピタルに対して、クレディ・スイスは過剰な信用をおいて大きな投資をしており、アルケゴス・キャピタルの破綻によって損失額50億ドル(約5500億円)にも及ぶ大きな影響を受けました。

3つ目は、2022年10月から12月にかけてのSNS騒動や3月のシリコンバレー銀行の破綻に伴う急激な顧客資金流出です。クレディ・スイスによると2022年11月にはウェルスマネジメント部門で約840スイスフラン、日本円で約12兆円が流出し、四半期全体では1105億スイスフラン(約16兆円)が流出したと言われています。

以上の3つの出来事が原因となり、クレディ・スイスは破綻寸前まで追い込まれ、その救済策としてUBSグループによる買収が決定しました。買収は、スイス政府の介入もありましたが、UBS側としては十分な資産査定を行う時間がないままに買収を決めなければならず、かなり買収には慎重であったとみられています。UBSを説得するために政府や当局による様々な救済措置が行われ、買収が実施されました。

どのような条件でクレディ・スイスの買収が行われたのか?

まず1つ目に、今回の買収の方法は、30億スイスフラン(約4300億円)規模の株式交換によるものです。クレディ・スイスの株式の時価総額は3月17日の終値時点で約74億スイスフランであったことを考えると買収額は半分以下の金額になりますので、かなり破格であることが伺えます。

2つ目の条件として、スイスの中央銀行であるスイス国立銀行が1,000億スイスフラン(約14兆円)の流動性支援をUBSに対して行うことが決まりました。

3つ目の条件として、UBSが買収する資産から生じ得る損失を吸収するために、スイス政府が90億スイスフラン(約1.3兆円)の保証をUBSに提供しました。

4つ目の条件は、160億フラン(約2.2兆円)のAT1債が無価値となったことです。

これは極めて異例な条件となっており、今回の処置で最も注目されています。これにより、投資家が多額のコストを負担することになったため、大きな波紋が広がっています。


まとめ

いかがでしたでしょうか? 今回は、AT1債が注目されるきっかけとなったクレディ・スイスの買収について、その背景と実際の条件を解説しました。 次回も引き続き、AT1債について解説をしていきたいと思います。 このブログが、債券をはじめとした金融商品の仕組みを理解するための一助となれば幸いです。 次回もお楽しみに!

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