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AT1債とは何か?(後編):債券の種類、バーゼル規制、弁済順位の詳細を解説
Column

皆様こんにちは。
株式会社 Japan Asset Managementです!

前回は、AT1債が注目を集めるきっかけとなった、UBSグループによるクレディ・スイス・グループの買収の背景と詳しい条件の内容、そして買収に際して決定されたクレディ・スイスの多額のAT1債の無価値化について解説しました。

今回は、前回に引き続き、「AT1債とは何か」について他の種類の債券や資本と比較しながら、わかりやすく解説いたします。

[目次]
・社債の種類
・バーゼル規制とは
・企業の負債の弁済順位
・まとめ


社債の種類

AT1債とは何かを理解するために、まずは社債(企業が投資家からの資金調達を目的として発行する債券)の種類について見ていきましょう。

債券とは、会社のバランスシートにおいて負債にあたる部分であり、返さなければならないものです。そのため債券は会社の資本ではありません。反対に、株式を発行して集めたお金は、返済の必要がない会社の資本になります。
ただし、図に記載のとおり、社債の中でも劣後債は資本性を有していることが重要なポイントです。

シニア債と呼ばれる普通社債は、融資の次に弁済順位が高く、比較的安全性の高い商品と言えます。一方、劣後債は普通社債に比べて法的弁済順位が低く設定されているため、発行体が経営破綻した際には一部または全部の返済が行われない可能性があります。

そして一番下にあるCoCo債は返済順位が最も低い債券となっています。
CoCo債は、Contingent Convertible Bondsのことで、日本語では偶発転換社債と呼ばれます。CoCo債は主に金融機関から発行される債券ですが、発行体である金融機関の自己資本比率があらかじめ定められた一定の水準を下回った場合、元本の一部または全てが削減される、もしくは強制的に株式に転換される性質を持っています

今回のクレディ・スイスの買収で無価値になったAT1債はCoCo債にあたります。

バーゼル規制とは

CoCo債が金融機関によって発行されている理由を理解するためには、まずはバーゼル規制について把握する必要があります。

バーゼル規制とは、銀行がリスクに対処するために必要な最低限の資本を確保することを要求する国際的な基準です。この規制により、銀行は潜在的なリスクに備えるために自己資本と準備資産を持つ必要があります。

特にリーマンショック以降、金融機関の安全性を高めるためにこの規制は強化されてきました。
その基準はいくつかあり、Tier1は「生きるための資本」、Tier2 は「安全に破綻するための資本」と言われています。

Tier1には、株式から調達された資本などが含まれ、Tier2には劣後債などが含まれます。
そしてTier1とTier2の間の、「その他のTier1」部分にCoCo債が当てはまります。
「その他のTier1」、つまり「Additional Tier1」を略して「AT1」と呼ばれているのです。

今回の買収では、クレディ・スイスのAT1債約2.2兆円が無価値となりました。
無価値になった背景としては、政府主導で買収する風評被害が及ぶことをUBSの株主が納得しないということもあり、クレディ・スイスのAT1債を保有する投資家にも責任を求めた結果、無価値にする判断となりました。
しかし、今回の決定が異例と呼ばれている理由は、クレディ・スイスの株式投資家にはUBSの株式を一定程度割り当てることが決定したからです。

企業の負債の弁済順位

企業のバランスシートの中でCoCo債と株式を比較してみましょう。

前述のとおり、企業の負債の中で弁済順位が最も高いのはシニア債、そして弁済順位が最も低いのは資本である株式です。バランスシート上、株主から集めた資金は資本となります。そのため、株式は本来、CoCo債よりも弁済順位が低いはずです。 にもかかわらず、今回のクレディ・スイスの買収では、株式の価値は担保されたままCoCo債のみが無価値になってしまうという決定となり、AT1債を保有する投資家が不公平ではないかと訴えているのが今の状況です。

しかし、バーゼル規制と今回のAT1債の条項を詳しく見ると、今回のように株式よりもAT1債の方が損失を被る可能性があることは事前に分かっていたことです。 債券とは、お金を貸して満期にはお金が返ってくるという仕組みの商品ですが、CoCo債や劣後債に関しては、財務状態によって価値がなくなってしまう可能性があるのです。欧州ではこのCoCo債が約36兆円以上発行されているため、動揺が広がり、大きなニュースになっています。


まとめ

いかがでしたでしょうか? 今回は、AT1債を含むCoCo債がどのような特徴を持つ債券なのかについて、他の種類の負債と比較しながらご紹介しました。 債券投資をする際には、その債券が発行される時にどのような条件がついているのかを詳しく確認することが重要です。また、債券の種類に関しても、単に利回りが高いからという理由だけで劣後債やCoCo債を選ぶのではなく、本当に利回りが高い分許容できるリスクなのかをしっかりと確認し、判断する必要があります。 債券運用は、事前に条件や仕組みを理解し、正しい知識を身につけてから進めていきましょう。

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